籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
絶対に一般人ではない発言の連続だ。私が自宅から持ってきたベッドや衣装ケース、テーブル、ソファなどは全て一部屋に収まるほど広いマンションだ。
彼が常にスーツを着ていなかったら芸能人だと勘違いしていたかもしれない。

「今日は有休を?」
「ええ、そうです。あの、キッチンなどは勝手に使用してもいいのでしょうか」
「もちろんだよ。ただ自炊はしないから食材は全くないけど」

食材が一切ないといった彼の言葉通り、ミネラルウォーターやお酒など飲み物以外本当に何も入っていなかった。それに黒色の冷蔵庫はどう考えても一人暮らし用ではない。

「じゃあ、俺はまた会社に戻る」
「え?今日はお休みを貰ったのでは…?」
「うん、だけど予定より早く終わったから。実は来月から兼任で違う会社に異動することになった。異動といういい方は語弊を生みそうだけど、まぁそんな感じだ」
「そうなんですね…兼任?」
「じきにわかる」

 またも不明瞭な回答にモヤモヤしながらもすぐに家を出る彼を見送った。
いったい、何の仕事をしているのだろう。
と、急にパーカーのポケットに入れておいたスマートフォンが振動した。

誰だろうと思い、画面を見ると…―。

「っ」

実家からだった。
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