籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「あなた、家を出ていく前に見合いの話があったことは覚えている?」
「…それはもちろん」
覚えていないわけがない。それが嫌で飛び出したのだから。
もちろん母親はそれを知っているはずだ。
立っているのが疲れてきたから近くにあった椅子に腰かけた。消毒液の匂いが鼻を掠める。
「あの後、物凄く大変だったのよ。相手はあの常盤物産の社長の息子だった。今は…確かそこの代表取締役副社長執行役員だったはず」
「へぇ、私の見合い相手って常盤物産だったんだ」
どこの会社の人なのか、何歳なのか、名前すら知らなかったから数年越しにそれを知って驚いた。やはり今働いている常盤食品株式会社に入社させられたのにも理由があった。
それほど大きな企業との縁談話を断った、いや、会う前から拒否したということは…―。
「じゃあ、お母さんもお父さんも大変だったんだ。本当にそれは悪いと思ってるんだ。ごめんなさい」
両親の顔に泥を塗ったことは事実だ。それも相当の量の。
「それで、先日ね再度向こうから縁談の話があったの」
「…え、冗談でしょ?」
「…それはもちろん」
覚えていないわけがない。それが嫌で飛び出したのだから。
もちろん母親はそれを知っているはずだ。
立っているのが疲れてきたから近くにあった椅子に腰かけた。消毒液の匂いが鼻を掠める。
「あの後、物凄く大変だったのよ。相手はあの常盤物産の社長の息子だった。今は…確かそこの代表取締役副社長執行役員だったはず」
「へぇ、私の見合い相手って常盤物産だったんだ」
どこの会社の人なのか、何歳なのか、名前すら知らなかったから数年越しにそれを知って驚いた。やはり今働いている常盤食品株式会社に入社させられたのにも理由があった。
それほど大きな企業との縁談話を断った、いや、会う前から拒否したということは…―。
「じゃあ、お母さんもお父さんも大変だったんだ。本当にそれは悪いと思ってるんだ。ごめんなさい」
両親の顔に泥を塗ったことは事実だ。それも相当の量の。
「それで、先日ね再度向こうから縁談の話があったの」
「…え、冗談でしょ?」