籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
社員食堂から出て長く続く廊下を下唇を噛みながら歩いていた。
孝太郎のことは別にもういい。振られてしまったのだから。
だけど藤沢千佳の方が良かったのだと、彼女には敵わなかったのだと思うと悔しい。

と、前方を見ていなかったから誰かにぶつかった。
すみません、そう言って顔を上げるとそこには

「…っ」
「はすみ、」

 孝太郎がいた。久しぶりに見た彼は少しやせたように見えた。
私は無言で軽く会釈すると彼の横を通り過ぎる。
だが、それは背後から掴まれた腕のせいで後方に体が動き前に進むことが出来ない。振り返ると、孝太郎の顔が徐々に強張っていく。それは私も同様だった。

「何?」
「あ、いや、…なんでもない。顔色悪いから。大丈夫?」
「全然大丈夫だよ」

 一切連絡がなかったのに、あの日だって追いかけてこなかったくせにどうしてたまたま会っただけで心配する素振りを見せるのだろう。

さっと視線を逸らし彼の手を振り払うと自分のフロアに向かった。

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