籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
特に驚くこともなく涼しい目を向けられる。

「だから新居を見つけ次第すぐにこの家を出ていく予定でしたが、更に早まりそうです」
「…ふぅん」
「再度縁談が来ているから、断るわけにもいかなくて」
「相手の話はどの程度聞いてる?」
「それは…全く」
「興味ないってことだね?」

 声を抑えるようにクスクスと笑う彼の喉仏が上下している。何がおかしいのかわからないが私は真剣に悩んでいるのに。彼はきっと私の両親のような思考をしているのだろう。

「ごめんごめん。はすみさんはいい意味でお嬢様ではないというか。さっき作ってくれたチャーハンもお嬢様が作るとは思えなくてね」

 褒められているのか貶されているのか分からなかったけど彼が楽しそうならそれでいいと思った。それに私からすると彼も同じだと思っている。こんなふうに楽しそうに笑うとは驚きだ。クールで凛とした雰囲気だったから。

「和穂さんのこともう少し知りたいのですが、どうして教えてくれないのですか?」

 和穂さんはグラスに注がれたミネラルウォーターを手にして傾けながら私から目を逸らした。

「教えたいのは俺も一緒だ。だけど、今は言えない」
「言えない?」

眉根を寄せて口を尖らせた。今度は言えない理由が知りたい。

「そう、君に言えない理由は二つある。一つは仕事上の理由で。二つ目は家の事情で。でもこれはある意味ヒントになるかもしれない。とりあえずすべては直にわかる」
「…うーん、全くわからない。でも…そっか、じゃあ和穂さんのことを知るのは諦めます。私ももう知らない誰かと結婚するわけだし、ここを出たら本当に関わりはなくなっちゃうわけだから」

 しんみりした雰囲気になったのは私だけでまたもや和穂さんは余裕そうに口角を上げる。
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