籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
役員以上のレベルの人事など私たち末端には全く関係のないことだ。
本社中核の部署の人らは役員たちの発表資料を作ったり関わることが多いから人事が気になるのはわかるが、今いる部署はそれらには関与していないからどうだっていいのだ。
午後になり、デスクに向かっていると突如上司から呼ばれた。
「ちょっといいか、佐伯」
「…はい」
上司から別室に呼び出される。夏子がアイコンタクトで何かを訴えてくる。
上司と会議室に入り向かい合うようにして座ると第一声に「単刀直入に言うと異動がある」と言った。
やっぱり、と内心緊張しながら
「どこでしょうか」
とゆっくりと訊く。
上司が一枚の紙を私に手渡す。そこには
「…コーポレート部秘書課?」
想像していなかった文字が目に飛び込む。
「今月から専務が変わることになった。専務取締役の秘書として佐伯が抜擢されたんだ」
「…え、」
何度も目をしばたたかせ、秘書?と口に出すが上司は冗談を言うタイプではないしこのペーパーに書かれてあることがすべてだ。
秘書課を希望したことなど一度もない。
「せ、専務の秘書ですか?あの…それは私には…」
「君は評価も高く、専務クラスの秘書は出世コースだ。この会社で頑張りたいのならいい人事だと思うが」
眼鏡越しから伝わる気難しそうな目が私を見据える。