籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「はすみっ、今は時間も遅いし、ここはロンドンだよ。明日でもいいじゃないか」
「離して!顔も見たくないの、さようなら」

 幸いにもクレジットカードはあるからどこか違うホテルに宿泊することになるだろうが…本当はあと二泊する予定だった。

 家だってそうだ。今月中に引き払うことになっていた。それなのにどうして彼は浮気をしていて私と別れることにしたのだろう。(本人は否定しているが)
 浮気相手が本命で、私のことが嫌いになったのならばこんな旅行などお金の無駄じゃない。それにここ半年はずっと彼の様子がおかしかった。何かに悩んでいるようだった。
もしかしたら浮気相手と私を天秤にかけていた可能性もあるが今となっては既にどうだっていい。
終わった関係なのだから。


 今月は残すところあと二週間弱だ。
全てを失ったと気づいたとき、ようやく涙が頬を伝った。輪郭をなぞるようにすうっと落ちる雫は音もなく跡を残すように何度も何度も流れていく。
既に辺りは暗い。近くのホテルを探そうにも海外用のポケットWi-Fiをホテルに忘れてきたことを思い出しスマートフォンを利用して検索することも出来ない。
 歩く気力も無くなり、石畳の上をとぼとぼと進みながらベンチに腰かけた。
気温は低くはないはずなのに、まだお風呂上がりの髪が濡れているせいで肌寒い。

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