籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
―両家顔合わせ当日

 私は先に実家に向かっていた。
まだ私の両親も和穂さんのご両親も私たちが一緒に暮らしていることは知らない。父親も既に退院をしており、意外にも元気なようだ。

 久しぶりの実家に緊張しながらも両親は至って普通だった。
相変わらず母親は刺々しい言葉を向けてくるし、父親は相手に失礼のないように、しか言わない。

 久しぶりに和服に着替え、メイクや髪をセットして常盤家を待つ。
実家にいたころは何度も着物を着る機会があったが家を出てからそれが無くなり久しぶりだったこともあって時間がかかってしまった。

 母親は普段も和服で過ごすことが多い。今日はグレー色のシンプルな和装姿だ。結納など正式な場ではないから薄藍色の訪問着で常盤家を待つ。

 ソワソワしながら応接間で彼らを待っていると廊下を歩く音と数人の声が聞こえた。
ごくり、唾を飲み込み立ち上がった。

 すっと襖が開くと同時に使用人に案内されてきたスーツ姿の和穂さんが入ってきた。
そのあとに続くようにして和穂さんのご両親が入ってくる。

「はじめまして。佐伯はすみと申します。今日はわざわざ遠いところからありがとうございます」

 両親も続くようにして頭を下げ、挨拶をした。
和穂さんのご両親はどちらも背が高く凛とした雰囲気は和穂さんの纏っているものと似ていた。

 にこやかに笑みを浮かべているご両親は表情豊かに見え、一見優しそうには見えるが感情が見えない。
和やかな空気に思えたが両家揃って腰を下ろし使用人が飲み物を運んできたタイミングで和穂さんのお父さんが口火を切った。途端、緊迫した空気が流れたのは和穂さんからもたまに垣間見える真剣な表情を見せたからかもしれない。オーラがあるのだ、彼らには。
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