籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
―5月上旬

 ゴールデンウィークもあり4月下旬から有休と合わせて大型連休にする社員も多い中、そんな暇もなく秘書課に配属され今日より常盤専務のもとで秘書として仕事をすることになる。

 家でも一緒で、仕事でも一緒など普通ならば考えられない状況に眩暈がする。学生向けの説明会や研修以外ではオフィスカジュアルで良かったがこれからは上下スーツでなければならない。人事部の引継ぎは何とか完了していた。

 私のほかに第一秘書もいる。社長は5人の秘書がいるようだ。

「和穂さん、行ってきます。今日からよろしくお願いします」
「うん、よろしく。はすみは優秀だって聞いているから何の心配もしていない」
「…あの、逆にプレッシャーになるんですけど」

ムッと口を尖らせて既にスーツに着替えている和穂さんを見上げる。
グレーの七分丈のジャケットを羽織り行ってきますね、と再度言って玄関へ向かおうとすると肩を掴まれた。

その力が思いのほか強く反射的に振り返る。
和穂さんの顔が至近距離にあり唇に温かい感触が広がる。
一度だけ私の部屋でキスをしたことがあったが、それだけだった。
だから油断していたのかもしれない。出社前のキスに固まった。

「早く行かないと遅刻するけど?それとも一緒に行こうか?」
「…いえ、大丈夫です」

一歩ずつ後ずさり逃げるようにして家を出た。

「…何なの?!」

 胸の高鳴りを隠すように小走りで心拍数を上げる。
会社では“普通”に接することが出来るだろうか。
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