籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
何だかいつもの彼ではないように感じたのは間違いではなかった。
普段ならば余裕そうなのに今日はそれがない。専務室にいるときの彼と今の彼は違う。
何も返せずにいるとぐっと腕を引かれ、立ち上がる彼につられ強制的に立たされる。
そして、キングサイズのベッドに連れていかれる。
ベッドが視界に入った途端に心音が煩くなるのが分かった。
そのまま強引にベッドの上に寝かされた。
「和穂さん…」
やっと出た声は彼の名前を呼んでいた。嫌ではなかった。
むしろドキドキしている。こんなにいい男に抱かれそうになっているからドキドキしているのだろうか。それとも…―。
「どうする?俺は無理にはすみを抱いたりはしない」
「…」
「だけど俺は君を抱きたいと思ってる。夫婦になるのなら、避けては通れないのは君も理解しているとは思うけど」
答えを出すことのできない私に苛立つこともせずにじっと見つめる彼の瞳は美しい黒曜石そのものだった。
彼の指が私の髪を掬った。
パラパラと指から落ちていく髪は神経などないはずなのにその部分が熱くなるような錯覚を覚える。ドクドクと血液が全身に巡っていくのもわかる。
どうかしてしまったのだ、私は。
まだ出会って少ししか経過していないのにも関わらず彼に魅了されている。
どうして?何故?
目まぐるしく脳内を駆け巡る疑問は答えを出せないまま停止した。