籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
声を出せずにいる私を視界に映すと今度は彼も同様に目を見開いた。
その反応に内心で首を傾げつつその場から立ち去ろうと腰を上げようとすると
「…君、名前は?」
と静かに聞かれる。

初対面の人に名乗るほど馬鹿ではない。
「もう帰るので、」
と伏目がちに言うと今度は腕を掴まれた。

「何ですか?」
「何か事情がありそうなので。別に何かしたりはしませんよ。だけど何度も言うように観光客だとわかるような身なりだと危ない。宿泊先は?」
「…今からどこかに泊まろうかと」
「なるほど。まぁ事情は聞きませんが、女性一人では危険ですよ。良ければ自分が宿泊しているホテルに案内しましょう。ちょうどこの近くですから」
「いいんですか?」
「もちろんです」

一般人とは思えないほど整った顔立ちのせいなのか、口調のせいなのかはわからないがどこか冷徹さを感じる。しかし行動は親切だと思った。

とりあえず今日泊まるホテルがなければ野宿になってしまう。それは避けたかったから、彼に従いホテルに向かった。

10分ほど歩くとホテルに到着した。
ホテルエントランスで客室が空いているかどうか問うと、空きがあるようで大丈夫だった。
心底ほっとして安堵の息を漏らすと隣にいた男性がこちらを見ていた。
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