籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「どうかした?今日は仕事の進みが遅いようだけど」
「…そんなことはないですよ」
「あぁ、そうだ。役員の方から上がってきてる資料見た?それ専務にメールで送信しておいて」
「わかりました」
土浦さんの言う通り今日の私は一段とおかしい。調子が狂っている。
それは昨夜の“行為”のせいなのだが、たった一度のその行為のせいでこうも朝からフワフワした気分になるだろうか。これが初めての行為なのだとすればわからないでもないが。
デスクに置かれた500mlのミネラルウォーターを手に取り一気に半分以上を喉に流し込む。
はぁ、と今日何度目かの息を吐き、集中集中!と心の中で喝を入れる。
「そういえばさ。昨日別れた後ってそのまま帰った?」
土浦さんが仕事中にも関わらずそう訊く。どきっと大きく胸が跳ねる。
その質問はどういう意図があってしているのだろう。
もしかして、昨日和穂さんと一緒に帰宅しているのを見られたのだろうか。
でも昨日は雨で視界が悪く道行く人は皆傘を差していた。和穂さんも同様に傘を差していたわけだから、たとえ私が彼と一緒に帰っているのを見られたとして…和穂さんが相手だと気づくだろうか。
私はゆらゆらと首を横に振った。
「帰りましたけど知り合いに会いまして。途中まで一緒に帰りました」
「そうなんだ。専務と似てる人と一緒に歩いてるのをコンビニから出てみたから」
「っ」
「そんなわけないか。専務って送迎車利用してるから」
「そ、そうですね」