籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
婚約していることはまだ社内の人間は知らない。いつそれを周りに伝えるべきか和穂さんと話し合っていなかった。私は籍を入れてからでもいいのかなと思っていたが、(孝太郎の件で婚約時点での会社への報告は少しトラウマだ)和穂さんは立場的に公表のタイミングは大切なのではと思った。
それに今回の結婚は両家が関わっている。
前回の顔合わせでは、すぐにでもという話ではなく抽象的な話しかしていなかったため和穂さんのご実家が実際どう考えているのか分からないでいた。
「あの、土浦さんって常盤専務のことどれくらい知っているのですか?」
「どれくらいっていうと?」
「プライベートとか」
「全然知らないよ。知ったところで仕事内容が変わるわけでもないし。でも…―」
タイピングしている手を止め、視線を空に移す。
「噂程度しか知らないけど最近兼任してる常盤物産の取引先のご令嬢との縁談があったみたいだけど断ったって」
「…縁談?」
「だから結婚はまだ先なのかもしれない。どうせ政略結婚とかそういう事なんだろうけど」
「…へぇ」
興味のない振りをしながらも内心ではその話を食い気味で聞きたいほどに興味しかなかった。
その令嬢とは私のことではないだろう。何故なら、彼は間違いなく最近という言葉を使ったからだ。
それに和穂さんは以前言っていた。
私と出会う少し前に縁談の話が来ていた、と。