籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「ん?」
「どうかした?」
「あー、いえ」

 蕎麦を啜りながらふと考えた。


―私は、恋に落ちた?


 どうして抱かれても嫌ではなかったのか、どうして彼のことばかり気になっているのか、よく考えなくても分かることだった。自分の気持ちに気が付かないようにしていたのかもしれない。

「…まじかぁ、」

 政略結婚をして夫婦になったら―…、普通は表面上の夫婦になるのではないか。

所謂仮面夫婦というものだ。
でも、お互い好意を持って夫婦生活を築けたらそれが一番いいことなのだ。

 そのようなことを想定はしていなかったが、少なくとも私は既に彼に気がある…わけだ。

「佐伯さん一人で顔芸してるけど何妄想してるの」
「顔芸?!」
「明日から手鏡持ってこようか。佐伯さんを見せてやりたい」
「…」


 癖の強い性格をお持ちで、と内心呟きながら残りの蕎麦を啜っていると私の隣の席に誰か座るのが分かり一瞥した。
< 87 / 154 >

この作品をシェア

pagetop