籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「っ…」
「お疲れ、ここいい?」

 椅子を引き、定食を頼んだのだろう、社員証をぶら下げた孝太郎が腰を下ろす。

最近はよく彼に会う。同じビル内で働いているとはいえ、階は違うし部署も違う。
顔には出さないようにしようと思っていたが彼は別だ。

 恨んでいるわけではないがトラウマを植え付けられたのは事実だ。
出来るだけ関わりたくないし、彼を見ると藤沢千佳を想起させる。
孝太郎は土浦さんと私を交互に見ながら口を開く。

「聞きたいことがあって。結婚するって聞いたんだけど本当?」
「そうだけど…孝太郎には関係ないよね」
「それって、誰?」


 関係ないって言ったのに彼はそれをスルーしてまるで私が何か悪いことをしたかのように問い詰める。
孝太郎は、誰?と聞きながら私の正面に座る土浦さんを見る。
もしかしたら勘違いしているのかもしれない。結婚相手が土浦さんではないか、と。

「それは…誰でもいいでしょ。もう孝太郎には関係ないんだから」
「…」
「あ、俺じゃないですよ。初めまして、秘書課の土浦と言います」
「初めまして、営業戦略部の成瀬です」
「別に俺が間に入ることではないんですけど、彼女もう既に結婚相手いるみたいなので関わらないで上げた方がいいのではないでしょうか」
「…」


 孝太郎の顔が引き攣っていた。私もそこまでハッキリ言う人を初めて見たため孝太郎と同じような表情をしていただろう。だけど同時にスカッとした。私の言いたいことを代弁してくれた土浦さんに感謝した。

 蕎麦を一気に食べ終えると私は「じゃあ、」と言って席を立った。土浦さんは既に食べ終わっていて私を待っていてくれたようだ。
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