籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
先ほどの薄暗い灯りの中ではわからなかったが、彼はスーツ姿だった。仕事でロンドンに来ているのだろうか。

「無事宿泊できそうです。ありがとうございました。」

腰を曲げて深く頭を下げた。

「いえ、それより…―名前を聞いても?」
「佐伯…はすみです」
「…」

 親切にしてもらったのに名前を名乗っていないことに気が付きフルネームを伝えた。
男性は数回頷き、唇の端を上げた。

「なるほど。部屋は何階ですか?よかったらこれから一緒に飲みませんか」
「…え?」

 初対面の相手と飲むなど私の中では絶対にありえないことだった。
実家を出たとはいえ、昔から交友関係に厳しい両親のもとで育ったことも影響しているかもしれない。
孝太郎とだってそうだった。告白を受けてからキスや体も許した。

「すみません、ここまでしていただいて…言いにくいのですが初対面の人とは…」
「では、こうしましょう。帰国したら…―何度か会っていただけますか?」
「え?ごめんなさい、どうして私と?…それに理由は?」

 先ほどから彼の言っていることは全て意味不明だった。初対面にも関わらずどうしてそのような発言をするのだろう。何かの詐欺だろうか。
佐伯はすみという名前を聞いてあの佐伯家の娘だとはわからないだろうが…何か裏がありそうで正直なところ関わりたくなかった。
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