籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
 二軒目はお手頃価格のバーに行った。

会社からも近いことから同じ会社の人がよく利用している。そもそもここのバーを教えてもらったのも前の部署の先輩だ。

 一階にはレストランが二階にはバーが入っているビルのエレベーターに乗る。

夏子も相当酔っている。顔が赤く声が大きい。普段の倍はある。
上気した頬にトロンとした目に見つめられたら多分ほとんどの男は“メロメロ”になるだろう。
喋らなければ、という前提の話だが…。

「いらっしゃいませ」


 ドアを開けるとマスターの声が響く。夏子はそれなりに常連だから顔を覚えてもらっているようだ。マスターが夏子ちゃんと呼んでいる。

 カウンターが空いていたから私と夏子はカウンター席に座った。
カクテルのほかにタコのマリネやレーズンバターが中に入っているフランスパンのカットなども注文する。

「そういえば旦那に連絡しなくていいの?」
「あー、そうだね。連絡しておこうかな」
「いいねぇ、ラブラブじゃん」
「そんなことないんだって。だって知り合ってまだ少ししか経ってないし」
「いやいや。そういうこと言ってる人ほど旦那大好きなんだよ」
「…違うってば」


夏子には全てを見透かされているのかもしれない。
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