籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
彼女をマンションまで送り届け車に戻ると和穂さんにお礼を伝えた。
「和穂さんも会食お疲れ様です」
「うん、君も結構酔ってるようだね」
「そうですね。楽しかったです」
「なら良かった」
良かったという顔をしてない和穂さんの横顔を見ながら車内で揺られること数分、マンションに到着する。
今日はお風呂に入ってすぐに寝ようと眠たいまなこを擦りながら自分の部屋に行こうとすると、和穂さんに手首を掴まれた。
「どうかしましたか?」
「…」
心の中を覗き込むように顔を見下ろす彼の目が今日は少し淀んでいるように見える。
「キスがしたいんだけど、いいかな」
「…っ…きょ、許可制じゃないのでいちいち口に出さないでもらえますか」
追い込まれるようにじりじりと距離を詰められる。手首は離されたというのに、距離がどんどん縮まる。
気づくと一歩ずつ後ずさっていて、足がソファに当たったところで私の負けは確定する。
「じゃあ許可なくしていいってこと?」
「はい、もちろん」
怖じ気ついているなどと思われたくないと、こんなところで幼少期からの負けず嫌いが前面に出てしまい思ってもいないことを言ってしまった。
キスが嫌だとは思っていない。でも、あんなにも上手で体の芯まで溶けそうなキスを高頻度でされると自分が自分でなくなってしまうように錯覚する。
ぐっと顎を掬われ唇が塞がれる。
「…っ…ふ…ぅ、」
後頭部に回る手の力が強まり、眉根を寄せた。
お互いふんわりとお酒の匂いがする。心臓が早鐘を打つたびにこの人にどんどん夢中になっていることを悟る。こんなにも呆気なく和穂さんに落ちていく。