秘密と家族
「神倉さん、あちらの席に次のお客様を通してもらえますか?」
琉梨に耳打ちする、里見。

「あ、はい」
琉梨は入口に向かう。

「ちょっ…お前、邪魔すんなよ」
「は?」
里見が客達を睨む。

「え……」
「お前…な、なんだよ……」
客達がビクッと身体を震わせる。

「悪いことは言わねぇ…あの店員に気安く話しかけるな。いいな?」
黒い雰囲気を漂わせ、静かに言った里見だった。

里見は華秀の部下で、琉梨を護衛する為に勤務をしている。
ずっと目を光らせていた。

「神倉さん、これを5番にお願いします」
それからも、里見が琉梨をフォローする。
「はい」


「…………里見さんは、凄いですね」
休憩中、里見に話しかける琉梨。

「え?」
「私と一週間くらいしか変わらないのに、こんなに違う……なんだか、情けないです…」
「俺は色んなバイトしてきたから、ただの慣れですよ!大丈夫。神倉さんも、すぐに慣れますよ!」
「そうかなぁ…?ありがとうございます!頑張ります!」
微笑み拳を握る、琉梨。

里見は思わず微笑む。
「あ…」
「え?」
「なんか、華秀くんに似てるなぁと思って……」
「え……」
「あ…華秀くんっていうのは、私の義理の叔父さんのことなんですが……とても器用で賢くて、優しくて、貫禄のある人なんです!カッコいいんですよ!
でも、心の奥にいつも悲しみを纏っていて……
恐ろしい人なんです。
里見さん、その叔父さんに似てます」

確かに里見は器用な人間で、基本的には動揺もしない。華秀にも、湊川の次に頼りにされる程の男だ。

華秀が里見を護衛につかせたのは、何があっても冷静に対応できるからだ。

その里見が、琉梨の言葉に動揺している。

【お前、俺に似てんだよなぁー同じ匂いがする!
お前“も”苦しい過去があるんだろ?】
華秀が里見に、最初に言った言葉だ。

初めてだった━━━━━━
心の中を見透かされたのは。

頑なに隠していた心の闇を………
今まで、見透かされたことなんかなかったのに。

そして今、琉梨にも見透かされた。

「え……いや、あの……」
「あ、ごめんなさい!急にこんなこと言われても困りますよね?仕事に戻りましょう」


「いらっしゃいま━━━━━琉雨!華秀くんも!」
「仕事初日の様子見に来たよ。琉梨、頑張ってる?」
「琉梨、久しぶりだな。相変わらず、いい女だ」
琉雨と華秀が微笑む。

「うん!なんとか出来てるよ!
後から話すけど、フォローしてくれてる店員さんがいてその方のおかげで!」
「そっか。良かった」
琉雨が頭を撫で、華秀が琉梨の頬を軽くつまむ。
琉梨は嬉しそうに、はにかんだ。

その三人の姿を、遠くから見ていた里見。

心の中に、言葉ならない熱いモノが芽生えていた。
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