秘密と家族
「華秀くんが寝たら、帰るから。
大丈夫。ちゃんとタクシーで帰るから」

ベッドに横になっている華秀を抱き締め、頭を撫でている琉梨。

「琉梨」
「ん?寝ていいよ!大丈夫。ちゃんとここにいるから」
「なんで来た?」

「華秀くんが、壊れそうだったから」

「あれは冗談だよ」

「違うよ。あれは、本気でしょ?
それくらいのことは、わかるよ。華秀くんが、本気か冗談かくらい」

どうしてこんな時に、鈍感でいてくれないのだろう。

だいたい……信用しているとはいえ、一人暮らしの男の家にこんな夜中に来ること自体おかしい。

襲われても、文句は言えない。

可愛くて、純粋で、真っ白で、綺麗で……
残酷な天使。

「琉梨」
「ん?」
「抱き締めさせてよ」
「え?」
「俺は、琉梨を抱いて(・・・)眠りたいっつったんだよ?」
「あ、そうか!」
「ほら、来て?」

一度腕をほどいた琉梨に、両手を広げる華秀。
「うん…」
琉梨は華秀の腕の中に横になった。

「温かい、抱き枕だな」
「そう?」
「うん」
「眠れそう?」
「うん」
「良かった!じゃあ…おやすみなさい」
「おやすみ…」

「………」
「………」

「華秀くん…」
「ん?」
「頭撫でないで…」
「なんで?」
「私が眠りそう…」
「うん、眠っていいよ」
「ダメだよ、琉雨に内緒で来たの。
琉雨が起きる前に帰らないと…!」

そうだろうなと、華秀は思う。

いくら相手が華秀でも、琉梨を一人で来させることを受け入れるわけがない。

(俺が琉雨なら、縛りつけてでも行かせない)

「もし寝たら、明日琉雨に言えばいい。
“華秀くんに無理矢理拐われた”って」
「そんな…ダメだよ!」

「でも俺は、琉梨が寝ないと眠らないよ?」
「え……!!?」
「さぁ、どうする?」

我ながら、意地悪な言い方だと思う。

「………帰る」
そう言ってベッドを降りた、琉梨。

「そう。
あーあ、寂しいなぁー(笑)」
その背中に、声をかけた。

「華秀くん」
「んー?」
「ごめんね」

「…………は?」
(なんで、謝るんだ?)

「私は、琉雨に嫌われたら生きていけない。
華秀くんの為に、ここにいてあげるべきなんだけど……琉雨にバレたら、きっと…嫌われる。
それだけは嫌なの。
それにこんなことで、私達三人の関係まで拗れさせたくない。
琉雨も私も、華秀くんが大好きだから。
これ以上……華秀くんを、一人にしたくない。
だから、私……帰るね……」

背を向けたまま俯いて、言葉を絞り出すように言った、琉梨。

そしてそのまま、振り返ることなく出ていった。
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