【完結】余計な愛はいらない。
「前に来てたでしょ?一緒に」
そう聞かれたわたしは「……あの人とは、もう別れたの」と答えた。
グラスから滴る水滴が、少しずつコースターに流れていく。
「そっか。別れたんだ」
「……はい」
玲音と別れてからまだ数日しか経っていない。
でもわたしの心の中は、ポッカリと穴が空いたみたいだった。
何も残っていないし、何も感じない。
「杏実ちゃんは、本当にそれで良かったの?」
「……え?」
そう聞かれたわたしは分からなかった。
「杏実ちゃんは、本当に好きだったんでしょ?彼のこと」
「……もういいんです」
わたしはそう答えて、ジントニックを一気に飲み干した。
「マスター、ジントニックもう一杯」
「はい」
マスターはそれ以上何も言わなかったけど、わたしのことを心配してくれているようであった。
「はい、お待たせ。ジントニック」
「ありがとう」
「杏実ちゃん、元カレを忘れるには、やっぱり新しい恋だよ」
と慰めてくれるマスターの優しさが、なんだか身に沁みた。
「ありがとう、マスター」
マスターの優しさに、ちょっとだけ救われた。