【完結】余計な愛はいらない。


「また連絡する」

「うん。……じゃあ、またね」

「気をつけてな」

 わたしは彼に背中を向けて、駅の改札に向かって歩き出す。
 改札にSuicaをタッチし、帰宅する方面の電車に乗り込む。さすがに夜22時をすぎると、電車の中の人は少なくなる。

 彼には帰る家がある。だけどわたしにはない。
 わたしは独り暮らしで、家族は遠く離れた所に住んでいる。
 家に帰ればわたしは一人になる。その一人になった空間はまるで空気みたいで、すごく虚しくなる。

 彼と体を重ね合った後の余韻が、体にはまだ残っている。 体に染み付いた彼の香りを嗅ぐだけで、わたしは彼のことを思う。
 虚しくなる。だけど幸せなその時間を思い出すだけで、わたしは幸せを感じられる。

 独りよがりかもしれないけど、わたしは体だけじゃなくて、心までもつながりたいの。
 体の全身をかけ巡るその理性が、わたしの欲望を更に掻き立てる。

 わたしは彼の心までも全部がほしい。……だけどそれは出来ない。
 わたしは、彼の隣にはいられない。彼の隣にいるのは、奥さんだけだから。
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