【完結】余計な愛はいらない。


「杏実、お待たせ」 

「野瀬さん」

 あれから一ヶ月が経った。 野瀬さんとはあの日以来、毎日あのバーで待ち合わせして、一緒にお酒を呑んでいる。
 野瀬さんとはまだ交際を始めたばかりだけど、幸せだと感じている。

「いい加減、野瀬さんじゃなくて颯人って呼んでくれと言ってるだろ?」

 野瀬さんにはそう言われるけど、わたしはまだ野瀬さんのことを名前で呼べない。
  
「すみません」

「でも杏実が可愛いから、許すけどね」

 と言いながら、野瀬さんはウィスキーを口にする。

「……優しいんですね、野瀬さん」

「俺が優しくするのは、君だけだよ」
  
 そんな嬉しい言葉をかけてもらうと、わたしはついニヤけてしまう。

「その杏実の顔、本当に可愛い」
 
「もう、野瀬さんたら……。飲みすぎですって」

「そんなことないさ」

 わたしは野瀬さんの優しさについ、甘えてしまっている。 野瀬さんがくれる言葉に喜んだり、恥ずかしくなったり。
 でも野瀬さんと一緒にいると、それも新鮮味がある気がする。

「杏実、俺は杏実のことが好きだよ。……誰よりもね」

「野瀬さん……」
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