ワンコ社長は小さな秘書を手放せない


 今日は一切ふざけず真面目に仕事をしていたから何かあったのかと思ったけれど、きっとこのために集中していたのだと今になって分かる。



「よし、終わったよ。おまたせ」


「は、はいっ」



 いつの間にか柊が私の前で手を差し出している。


 思わずその手に重ねて、勢いよく立ち上がった。


 ぎゅっと握られた手を見つめてから初めて、スムーズにエスコートされたことに気づく。



「あの、ここ会社……!」


「みんな僕たちのことを応援してくれてるし、仕事は終わってるんだから大丈夫だよ」



 自信満々にそう言って。全く離してくれる気配はない。

 そのまま柊の愛車まで連れていかれて助手席に乗り込んだ。


 この助手席には何度か乗ってきたけれど、毎回普段とは違う真面目な柊を見れてちょっと嬉しかったりもする。


 運転中はさすがにふざけられないらしい。


 しかも、高級車なのか乗り心地はめちゃくちゃいい。

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