ワンコ社長は小さな秘書を手放せない
どうして他の人を見ていたの? と聞きたい。
だけど、そんなことを聞けるはずもなく、さっきまで楽しくて上がっていたテンションが急激に下がっていった。
冷たく素っ気ない言葉になってしまうのを感じる。
「ん、……なんかあった?」
柊はどうしてそんな一瞬で見抜いてしまうのだろう。そんなに分かりやすかったのかな。
「なんでもないです」
「なんでもなくないでしょ? こっち来て」
ふざけた感じでもなく、本気で心配してくれていることが分かる。
私は振りほどくこともできないまま、腕を引かれて建物の影に連れていかれた。
「ここなら人もいないし話してくれる?」
あのたくさんの視線を浴びながら話すのは難しいと思ったのだろう。
それが柊の優しさで、嬉しいはずなのに私の気持ちは上がってこない。
これを言ってしまっても柊は呆れないかな? 面倒だと嫌いになったりしない?
私は怖々と柊を見上げる。
「大丈夫だから教えて? 誰かに意地悪されたの?」