ワンコ社長は小さな秘書を手放せない
しかも、たったの30分で。
こういう時の仕事量が普段から出せたらもっと楽なのに、柊は全力で私に構うことを優先してくる。
「ほら、行ってきなさい。これはやっておくから」
先輩にも後押しされてしまい、私は渋々と立ち上がり柊のもとに近づいた。
「はいっ。ここ来て?」
「……」
きっと柊は、私がその声に弱いことを知っていて言っている。
まるで、他の人なんて誰もいないかのように、その瞳には私しか映っていない。
それが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、とても複雑だ。
「ご褒美、ちょうだい?」
「っ……! 少しだけ、ですよ?」
断れない私はその誘いに乗った。椅子に座りながら両手を広げて待っている柊の前に立つ。
そして次の瞬間、私は膝の上に横抱きで抱き上げられていた。
「ちょっ! 社長、離してください」
抜け出そうともがくけれど、そんな意味がないほどすっぽりと抱き抱えられてしまっている。
これだから、背の高い人には叶わない。