パン職人の店長を、好きになりました。
***
「……はぁっはぁ……っ! 遅れましたっ!」
店の裏口に入ると、店長が石窯から焼けたパンを袋詰めしているのがみえる。学校のホームルームが終わったのが普段よりも十分ほど長かったために全力疾走でバイト先であるパン屋へ来る羽目になってしまった。
いつもなら十五分くらい前には到着できるのに。
「彩愛ちゃん、お疲れ様。駅から走ってきたの?」
「……は、はいっ……ほ、ホーム、ルームがっ……長くて」
息切れ状態の私はこのパン屋でアルバイトとして働いている清水彩愛(しみず さいあ)、高校二年生。
「彩愛ちゃん、落ち着こうか……そんなんじゃお客様の前には立てないでしょ」
そう言ったのは店長兼パン職人の倉橋庵(くらはし いおり)さん。
コックシャツにベージュのズボンを着ており、コック帽を取った店長は髪が癖が付いていてピョンと立っていて可愛い……と考えていたのに、店長は近くのテーブルに温かいホットミルクを置いた。
「そうですね……っ、ミルクありがとうございます」
「うん、全然。落ち着いたらおいで」