僕らの恋愛事情【完】 ~S・S更新中~
episode、9 新たな世界
欠陥人間
マンションには帰らず、アパートから出社する。
先日のフェスに対する問題点を報告し、新たなイベントへの取り組みが始まり、主催者との打ち合わせや企画を練る会議に追われていた。
「あ~疲れた・・・」
「みゃ~~!」
いつもは一人で呟く空間だけど、最近はアップルが出迎えてくれる。
「アップル~、ただいま。寂しかったかい?」
ゴロゴロとのどを鳴らしながら、俺の足にすり寄る彼を抱き上げる。
フワフワで軽くてゴロゴロで…。
もう、なんか愛しさが込み上げてくる。
「詩安さんは今日も遅いんだね」
「ミヤ~」
すごい、会話しているみたいな返事をする。
冷蔵庫を開けたら、彼が用意してくれているオカズが入ってた。
ここの世話代だって現金を渡しそうだったから、遠慮したんだ。
そうしたら、朝晩の食事を用意してくれるようになった。
それらをレンジで温めて、アップルの皿にも猫用のご飯をいれる。
「いただきます」
俺が言う頃にはカリカリと食べ始めていた。
一人じゃない空間。こんなにも救われた気持ちになる。
紫音と穂香のことを思い返せば、心が重くなるし気落ちもする。
でも、それと同時に二人がそうならないようにって立ち回っていたかつての自分の姿を、客観的に反芻して・・・、どっちが最低なんだかと自分に呆れる毎日だった。
寂しさを埋めようと二人を利用してたのは俺だ。
長い年月を二人と過ごしてきて、それが永遠に続けばいいのにと欲張っていた。
待ってくれていた紫音に気づかないフリをし続けて、密かな想いを隠してた穂香に彼を取られまいとしていた。
紫音が彼女の愛に気がついた今、俺は潔く身を引くべきだと自覚はしている。
でも、帰る予定を過ぎてもマンションを訪れることもなく、帰ってると知らせも出さなかった。
一度だけ、帰りが遅いと心配した紫音に”仕事が長引いた”ってメッセージ送ったけど、そんな嘘は長く通用するはずがなかった。
”仕事が長引いた”
俺が送ったメッセージを見せつけられる。
「なにこれ、ユウ」
「なにって、そのままだよ」
「仕事―――長引く訳ね―よな?」
「まあ・・・ないね」
「じゃあ、なんでこんな嘘つくの?」
「————それを、俺に聞くの?」
「ああ?何言ってんの?」
「シラを、切るなよ。———聞いたんだよ」
「なにを」
「穂香の―――喘ぎ声」
「・・・・・・そうか」