僕らの恋愛事情【完】 ~S・S更新中~
episode、10 異国で感化される人生スタイル
国の違い
「焦らなくとも仕事はいろいろあるからさ、最初の一ヵ月はゆっくりするといいよ」
そんな詩安のお言葉に甘えてここでの生活も3週間が過ぎた。
イタリア北部にあるこの都市は、川沿いに中世の旧市街があり、かの有名な舞台のモデルにもなった中庭を見下ろす小さなバルコニーがある。
詩安が休みの時はこの旧市街を散歩したり、ロミオとジュリエットごっこして遊んだりしていた。
古代ローマ時代の巨大な円形闘技場で、有名な人らがコンサートやイベントをすることもあって、そのありえない光景に俺は目を疑った。
歴史的建造物を保護しながらも、現代のニーズに合わせるやり方に感銘を受ける。
日本にいる時とは違って、詩安の仕事内容は過密になることなく夕方には必ず帰って来ていた。
休日も多くて二人で過ごせる時間も多い。
そんな日はアディジェ川がよく見える中腹に座り込んで、恋人のように語り合う。
周りには俺たちのように、いろいろな人らが同じようにしていた。
その光景に眉をひそめる人は、誰一人いない。
日本にはない光景だった。
日本だったら、昼間から男と男がこんなに顔を寄せ合って話をしようものなら、すぐ注目の的になってしまうだろう。
でも、ここでは当たり前のことなんだ。
恋人同士になるのに、女と男の組み合わせじゃないといけなんて常識はここにはない。
だから、変な目で見られることなんて一度もなかった。
まわりに感化されて、そこで初めてキスをしたのは、この国に来て一週間も経たない時だった。
大聖堂の鐘が鳴り響けば、なお一層夕焼けの色が濃くなる錯覚をおこす。
そんな色に染まってゆく街並みを、小高い丘からアップルと見渡していた。
夕日がきれいな街並み。
あまりの美しさに心がじんわりと温かくなった。
この時間になれば、この景色に負けないくらいの笑顔を浮かべる人に会えるのだから。
「アップル?詩安迎えに行こうか、もうすぐ閉店だね」