エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
その後、北沢くんからの噂の否定も入ってピタッといじめはなくなった。
かわりに私と朔は付き合っているということになっていた。誤解を解こうとしても、みんな「うんうん、照れなくても大丈夫」と生優しい目で見てくる。そのうち、訂正するのも面倒になってきて、そのままにしておいた。朔にも「変な噂が立ったから、訂正する」と言うと、「もういい。そのほうが平和だ」と止められた。事実、朔のおかげで私の周囲は急激に平和になった。だから、お言葉に甘えさせてもらった。もちろん、下心もあった。
なんだかんだで、私は朔のことが好きだったのだ。構っていくうちにほっとけなくなって、そのうち同性のような存在がどんどん成長して男らしくなって。顔を見るたび嬉しくて、ドキドキと落ち着かなくなった。これが好きだという感情なのだと気づいたのは、朔がいじめっ子を吹っ飛ばしてくれた時だけど。
あの時の朔はどのスーパーアイドルやイケメン俳優よりもかっこよくて、どの格闘技家や歴代ヒーローよりも強く、私の目には焼き付いた。
ふっ飛ばされた男子とは違う意味で私もノックアウトされたのだけど、特別何か関係性が変わることはなかった。朔は相変わらずの不愛想。女子は寄り付かない。
だから、焦ることもなく、元来私は恋情に任せて積極的に攻める性格でもないから密かに片想いを募らせるだけの日々。ごく稀に帰宅時間が被って、駅から家までの道で一緒になった時、朔がゆっくりと歩いてくれて隣に並んで帰るのがすごく幸せだった。やっぱり人目のある学校で話しかけるのは緊張してしまうから。
話の内容は、その日あったこととか、テレビの内容とか、試験の話。本当に他愛ないものを私が一方的に話していた。朔は適当に相槌を打つだけ。昔からそうだから気にしていなかった。うるさい時は「うるせぇ」って言う性格もだし。女として見られていないけど、幼馴染としては嫌われていないと思った。そうじゃないと、わざわざ男子生徒を蹴飛ばしたりしないだろう。特別枠に自分が入っていることだけでも満足だった。
だが、予想より早く別れの時が来た。中学三年になる頃、朔の祖父母が立て続けになくなった。肝臓を患っていた朔の祖父が他界して、後を追うように祖母も病で急逝してしまった。一人ぼっちになった朔を母親が迎えに来た。朔の母はキャリアを積んで海外で働くことになったらしい。朔は必然的に母の赴任先についていくことになった。
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