エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
もう、やるしかないのだ。
その週末、本当に朔はうちに来た。スーツ姿でちゃんと菓子折りを持って。
「柚瑠さんと結婚させてください」
両親に頭を下げてくれた。私も倣うように頭を下げると、ほっと両親が安堵の息を漏らすのが聞こえた。
そこからはトントン拍子。朔の母親はまだ海外だから電話で報告をした。こちらも大層喜んでいた。何の弊害もなく私たちは結婚する運びになった。
階段を五段飛びくらいのスムーズさに、私はやはり何か仕組まれていないのかと懸念を拭えなくて、何度も朔に聞いた。
朔の母親から私の世話をごり押しされたのではないのか。私の両親から賄賂をもらったのか。もう国家ぐるみの陰謀論まで説きだした私に朔は大きなため息をついた。
「お前な、どういう妄想力だよ。何にもないよ。話したとおり俺たちだけの契約。何か不安か?」
「と、特にそれはないけど。私って今無職で身体もこんなだし」
不安といえば私のことだ。倒れてから身も心も健全とはいえない。
朔は利害関係を見越した契約だという。でも、朔は素っ気ない態度が多いけど、眉目秀麗。本当にボロボロの私でいいのか不安になる。いくら見知った仲とはいえ、結婚相手の条件的に自分がよくないのはわかっている。
もごもごとそう言うと、朔は眉根を寄せて腕を組む。
「あのなー、そんなの最初っからわかってて提案してんのこっちだし、お前の身体がどうので見捨てることもしない。そんなかっこ悪すぎるだろ」
朔の眉が少し顰められる。こういう男らしいところも昔と変わっていない。口数が少ないからこそ、一度出した言葉は責任を取る性格だった。
そこで、周囲の視線が突き刺さってきて我に返る。ここは区役所のカウンター前で何組ものカップルが私たちをチラチラ見ながら婚姻届を提出していく。
私たちも今日入籍するために来ている。
「じゃあ、もう出すけどいいか?」
「う、うん」
最後の押し問答を終えて、朔が手の中のものを私に翳す。うちの両親が証人になってくれた、すぐ皺になりそうな薄い紙。
窓口の女性は受け取るとさっと確認して、「はい、大丈夫ですよ」と平坦な声音で私たちを一瞥した。ものの数十秒の時間で、私は前田から工藤柚瑠になった。
その週末、本当に朔はうちに来た。スーツ姿でちゃんと菓子折りを持って。
「柚瑠さんと結婚させてください」
両親に頭を下げてくれた。私も倣うように頭を下げると、ほっと両親が安堵の息を漏らすのが聞こえた。
そこからはトントン拍子。朔の母親はまだ海外だから電話で報告をした。こちらも大層喜んでいた。何の弊害もなく私たちは結婚する運びになった。
階段を五段飛びくらいのスムーズさに、私はやはり何か仕組まれていないのかと懸念を拭えなくて、何度も朔に聞いた。
朔の母親から私の世話をごり押しされたのではないのか。私の両親から賄賂をもらったのか。もう国家ぐるみの陰謀論まで説きだした私に朔は大きなため息をついた。
「お前な、どういう妄想力だよ。何にもないよ。話したとおり俺たちだけの契約。何か不安か?」
「と、特にそれはないけど。私って今無職で身体もこんなだし」
不安といえば私のことだ。倒れてから身も心も健全とはいえない。
朔は利害関係を見越した契約だという。でも、朔は素っ気ない態度が多いけど、眉目秀麗。本当にボロボロの私でいいのか不安になる。いくら見知った仲とはいえ、結婚相手の条件的に自分がよくないのはわかっている。
もごもごとそう言うと、朔は眉根を寄せて腕を組む。
「あのなー、そんなの最初っからわかってて提案してんのこっちだし、お前の身体がどうので見捨てることもしない。そんなかっこ悪すぎるだろ」
朔の眉が少し顰められる。こういう男らしいところも昔と変わっていない。口数が少ないからこそ、一度出した言葉は責任を取る性格だった。
そこで、周囲の視線が突き刺さってきて我に返る。ここは区役所のカウンター前で何組ものカップルが私たちをチラチラ見ながら婚姻届を提出していく。
私たちも今日入籍するために来ている。
「じゃあ、もう出すけどいいか?」
「う、うん」
最後の押し問答を終えて、朔が手の中のものを私に翳す。うちの両親が証人になってくれた、すぐ皺になりそうな薄い紙。
窓口の女性は受け取るとさっと確認して、「はい、大丈夫ですよ」と平坦な声音で私たちを一瞥した。ものの数十秒の時間で、私は前田から工藤柚瑠になった。