エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
プライベートの時間は体力回復に回す。ただ、こんな私にも彼氏がいた。付き合っているからには、できるかぎり休日は一緒に過ごせるよう努力した。
彼の家にいって苦手なのにご飯を作ったり、デートしたり。それも、だんだん体調を崩してキャンセルすることが続くようになった。
そういう綱渡り的な生活は唐突に終わりを迎えた。私のミスで相手先とのアポイントのスケジュールが一日ズレていた。初歩的なミス過ぎて自分でもありえなかった。でも、どうしてと思っても起こってしまったからにはまず対応しなければならない。
何とか資料をすぐに用意して会合の手配は整えることができた。部長に謝ったが、怒りがおさまることなく会合の後大声で叱責された。
「役立たずはいらん!さっさとやめろ!お前がいなくても代わりはいる!」
大きな槍が胸に突き刺さったくらいの衝撃だった。泣きそうになったけど、堪えた。ひたすら謝って仕事に戻ったものの、気持ちが落ち着かずその日は身が入らず早々に帰ることにした。
といっても定時は過ぎていた。だけど、久々に終電ではない電車に乗れるだけ有り難い。身体も心も鉛のように重かった。何となくひとりになりたくなくて自分の借りているマンションではなく、途中下車して彼氏の家に向かった。
彼氏は同い年の井上宏尚という、明るい性格の人だった。友達の紹介から知り合い、告白されて半年ほど付き合ってみたものの、私の仕事の忙しさから普通の恋人よりも過ごす頻度が低い。それがずっと気がかりで、罪悪感があった。
彼は家電メーカーの営業マンだ。平日だけど、もう家に帰っているだろうか?
行ってみれば部屋に灯りはついていた。インターフォンを押す。出ない。お風呂かな?私は渡されていた合鍵を使って施錠を解くと、ドアを開いた。
玄関から廊下に上がると、浴室からシャワーの音がした。ただ、何かが違う。声がした。女の。
行ってはいけない。頭の中でもう一人の自分が制止する。ただ、身体は浴室へと続く扉を開けていた。洗面所があって、曇りガラスの向こうで、人影が揺れている。シャワーがタイルを叩く音の中、女の甲高い嬌声と喘ぎ声が響いている。
気づいた時にはガラス戸をガッと開け放っていた。
途端に止む声。シャワーは相変わらず降り注ぐ中、宏尚ともう一人、女がこちらを振り返って固まっていた。もちろん二人とも全裸だ。
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