エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
そうか、朔はずっと里見さんに片想いしていたんだ。それで誰とも結婚する気がなくて、縁談の弾よけに私と契約婚をしたんだ。
朔がもう今後、誰とも恋をする気はないと諦観的なのも相手が人妻で手に入らないから。
すべての謎がスルスルと解けて、ついに長年靄が掛かっていた部分までもが紐解かれていく。
だから、メールも来なくなったんだなぁ。
里見さんに恋をしたから。朔は器用に愛想を振りまける人間ではないし、好きになった女性を大切にする。
私のメールでのやりとりから、聡い朔なら私の好意に気づいたかもしれない。だから、私と距離を取った。夏のあの行為は……きっと見知らぬ土地に行く前の不安に寄り添ってもらいたかっただけ。その誰かがたまたま傍にいた私だった。
そう思うと、少し胸の奥がズキッとした。古傷をこれ以上抉られないように思考をそこから引き剥がす。
「おい、柚瑠」
「朔……」
「お前、モンブラン好きだったよな」
一枚の皿にちょこんと載った小さめのモンブラン。わざわざそれだけを取りに行ってくれていたのか。
本当に優しいんだよなぁ。
仏頂面と天邪鬼な性格でかなり損をしている。
「どうした?気分悪いのか?」
固まったままの私に朔が不審がる。ここで真実を口に出すほど無粋でもない。気づかないふりが一番穏便であり、優しい方法だ。
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