エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
「もうひとり来るんだけど、遅くなるみたい」
「え、誰?」
「英里子」
知佳の口から出た名前に頭が真っ白になる。砂川英里子は私の親友だった。そして、裏切られた。あの浴室での光景が蘇ってきて、久しぶりにぐっと胃を締め上げられる感覚に襲われる。
「一昨日偶然会ってね。その時に来たいっていうから。お祝いの席だし、私たちあんまり会えてなかったから」
「柚は仲良かったよね?」
「え、えっと、今は会ってないけど……」
「お待たせ」
少しハスキーな声が後ろから聞こえてきた。背中に汗がぶわっと噴き出す。
「わぁ、英里子久しぶり!」
「うん、みんな久しぶり。真美、結婚おめでとう」
「ありがとう」
私を除く他の子たちは英里子と笑顔で会話をし始める。私はじっと椅子に座って石のように固まるだけ。
本当に来た。
しかも、向かい側の席。真正面から見ても彼女が動じる素振りはない。
どういう神経してるの?
ガンガン頭の中で大きな鐘が鳴っている。あの倒れる直前と同じ。うるさくて思考力を奪う。
頭が割れそう。
でも、笑顔を張り付けて真美と旦那さんの現状を聞く。真美のお祝いのために来たのだから、倒れるなんてできない。
気力で堪えていたものの、食事が運ばれてきても気持ち悪くて口に運ぶことができない。おいしそうに盛り付けられた前菜やパスタなどを食べなければと思えば思うほど、喉の奥に重い石が詰まったみたいに入っていかない。
「大丈夫、柚?食欲ないの?」
「う、うん」
奈々子が気を遣ってくれるのに、曖昧に頷く。正直、いつまで持つか。これ以上気持ち悪くなって吐きそうになったらどうしよう。気が気じゃなくて心臓がずっとバクバクと大きく軋んでいる。
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