エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
午後からも事務作業をしながら、途中来客へのお茶出しやらしていたら、あっという間に退社時間になった。六時でタイムカードを押して、買い物をしてマンションに帰るのが大体のルート。
今日も朔は遅いだろう。一応、夕飯を作っておくと食べてくれる。シャワーと着替えだけをしに帰ってきた時も、ちゃんと食べていく。
残さないところをみると、食欲はまだあるから安心ではある。逆に食べないと身体がもたないのかもしれない。
「少しでも体力つけるようなもの……。いや、でも、夜中に胃もたれするものはだめ」
となると、魚料理が多くなる。とはいえ、そこまで朔は魚が好物というわけでもない。しかも、レパートリーが少ない私が考えつくものなんて数が知れていて、毎回似たようなメニューになる。
やっぱり、料理教室通おう。そのために、京子さんの心境を探らなければ!
ネットで私でも作れるレシピを検索しながら気合を入れる。
作り終えて八時を過ぎても朔は帰ってくる気配はなくて、私はひとりお味噌汁と鮭の切り身を食べ始める。健康的で栄養バランスを考えたら朝食みたいな献立になった。朝の忙しい時間に作れる要領はないから朝食に作ったことがない。
広いリビングでひとり食べていると寂しくて、テレビをつける。順々にチャンネルを巡ってから、一番賑やかなバラエティー番組にした。画面には楽しそうに笑う芸能人たちが映し出される。リビングは笑い声で満ちていくけど、さっきよりもさらに孤独感が増していく。
「はぁ」
ごはんをぼそぼそと食べる合間に漏れる溜息。と同時にドアが開く音がしたからびっくりして椅子から飛び上がった。
入ってきた朔も飛び跳ねた私に驚くから、ふたりでしばし見つめ合う。
「た、ただいま」
「さ、朔!?」
「そんなに驚くことか」
朔がふっと口元を綻ばせる。よほど、私の顔が仰天しておかしいらしい。
「だ、だ、だって!仕事は?」
「今日は早めに切り上げてきた。明日一日ずっと詰めるから」
「そっか、そうなんだ。あ、ごはん用意するね!」
急いでキッチンに向かい、料理を盛り付ける。まだ作ったばかりでそこまで冷めていなくて、よかった。鮭が焦げているのが減点……。より焦げたほうは私が食べたけど、こっちもこっちで焼きすぎ感は否めない。
「そういえば、全然クレジット使ってないだろ」
「え?」
アイランドキッチンの向かい側から朔に言われて、フライパンの上の切り身を凝視していた私は顔を上げた。
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