エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
京子さんがちょうど言った時、頼んでいたサンドウィッチとコーヒーが運ばれてきた。
ウェイトレスさんが丁寧に置いていく間、私の心臓はドキドキと大きく鳴っていた。バイトの期日は決めていない。単純に、京子さんが朔のところにいる間だと思っていた。
今どう返答したらいいのか迷う。このまま京子さんの会社で働くことは嫌ではない。でも、朔に相談もなく安易に返事ができない。
私が何も言えずにいると、京子さんは逆に破顔した。
「ごめんね!悩ませてるわね!」
「い、いえ!ただ、突然で頭が真っ白で。大したことできてないですし」
「そんなことないわ。別に身内だからという理由で声をかけているわけではないし、朔のことがなくてもうちにいて欲しいのよ。別れたとしてもね」
「わ、別れませんよ!」
「ふふふ、それならよかった。まぁゆっくり考えてみて。本当に柚ちゃんがしたい方向を選んでいいからね」
京子さんはさらっとそれだけ言うとコーヒーカップを持ち、一口飲む。あくまで私の意思を尊重する姿勢でいてくれるのに安堵する。
朔に相談しないと。でも、彼の仕事が忙しい今は避けたい。一分でも多く睡眠に回してほしいから。
昨日も深夜帰りのうえ、早朝出社していった。朔とは帰宅後少し顔を見たくらいで、ほとんど会えていない。
今週に仕事が一段落するって言ってたから、それから相談しよう。
お疲れ様会として、何かおいしい料理を作ってあげたい。だから、料理教室に早く通いたい!
そう、忘れてはいけない。私には任務がある。そして、今が最大の好機!
神崎さんとの契約において、心苦しさはあれど任務を遂行する!
「あの、京子さん!」
「ん、なあに?」
「かかかか、神崎さんのことなんですけど」
「何、あの人にセクハラされた?」
「ち、ちがっ!されてません!」
「うそよ。そんなことしたらぶっ倒して会社の窓から吊るし上げる」
言葉とは裏腹に美しく微笑み、たまごサンドを優雅に食べる。そのギャップが余計に怖い。
「えっと、神崎さんが私に何かしたわけではなくっ」
「頼まれたんでしょ?私のこと」
すべてお見通しとばかりに京子さんの双眸が細められる。その目は少し呆れていて、同時に優しさを帯びている。
「は、はい」
「なんかそういう気していたのよね。でも、気づかないふりをしていたの。答えを出す時間が欲しくて。私ってずるいわよねー」
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