エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
「あっそ。それもそうか、鳥かごみたいなここじゃつまらねぇもんな?外に出ていきたくもなるよな」
「ち、違うよ。私は……」
「別に、他にパートナーができても問題ないって契約だっただろ。そいつと一緒になれば?」
「……朔、本気で言ってるの?」
あまりの発言に息を呑み、思わずこちらの声にも怒気が籠る。
めずらしく怒りを露わにする私に朔は口を噤んで、やがて視線が逸された。
「昔からずっとお前に振り回されてばかり……」
朔の声を遮る形でリビングのドアが開く。お風呂上がりの京子さんがパジャマ姿で扉の向こうから現れた。
「あら、朔。帰ってきたの?」
朔が京子さんのほうを向く。その横顔はもう通常の彼そのものだった。
「着替え取りに来ただけだから。今日は会社に泊まり込み」
朔は自室に入っていくと、クローゼットからシャツの替えなどを取って家を出て行った。
『振り回されてばかり』
その後に続く言葉は拒絶のものしか浮かんでこなくて、私はその背中を見送るしかなかった。
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