客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
「そういえば二葉、最近よくお泊まりしてるよね。仲良さそうで羨ましい〜」

 ニヤニヤしながら美玲が聞いたものだから、二葉は飲んでいたチャイを吹き出してしまった。

「えっ、何それ! 初耳なんだけど」
「おやおや、私たちに報告はないの?」

 想像していた通りの質問攻めに、二葉はタジタジになる。

「と、時々ね……」
「……で、相変わらず相性は良いの?」
「うっ……うん、まぁ……」

 二葉は思い出して、恥ずかしくなり、顔を真っ赤に染める。

 久しぶりに体を重ねたあの日から、触れても触れても、もっと触れたくなる。自分が思っている以上に、私は匠さんのことを好きみたい。

 その時にふと《《あのこと》》を思い出し、また気持ちがもやっとする。

「あのさ……恋人がいるのに昔の恋人に連絡をしたくなるのって、どういう気持ちの時なのかな……」

 二葉が呟くと、三人は黙り込む。

「いやいや、私は恋愛初心者、彩花は今フリーだし」
「私は付き合い始めだし」
「わからない心境だわ。まさか副島さん、昔の恋人に連絡したの⁈」
「ち、違う違う! 知り合いの話! 昔ちょっと関係のあった女の人から急に電話がくるようになったんだって。しかも相手は既婚者で、関係を持った時は夫婦仲がうまくいってなかったみたい。今はわからないけど……」
「……それって全員独身の私たちにはわからない世界だよね」
「……だよね、ごめん」

 そう。私たちはまだ何に縛られることもなく過ごしている。だから考えてもわからないのかもしれない。

 そんな中、彩花だけはじっとグラスを見つめ、何かを考えていた。

「彩花?」
「……ちょっと違うんだけど、私さ、一人の人とずっと付き合って、そろそろ結婚かなぁって思ったらフラれたんだよね。ただ、そうなった理由は所々にあったなぁと思って」
「例えば?」
「一緒にいても会話が減ったり、セックスもしなくなって。不思議なんだけど、セックスしないとお互いを異性として意識しなくなるんだよね。友達みたいな感じ。疲れてても、ほんの少しの時間でも、ちゃんと恋人に戻る時間を作るべきだったって後悔した。まぁそんなで彼はちゃんと愛し合える人を見つけて、今は幸せにやってると風の便りで聞きました」
「風じゃなくて、友達からの情報でしょ?」
「そうそう。そういうお節介な報告をわざとしてくる奴がいるのよ」
「うわっ、ウザい」

 すると美玲も考えに耽りながら口を開く。

「でもさ、それって結構リアルな話だよね。今ってレスとか不倫とかのドラマも漫画もわんさかあるじゃない? やっぱり現実問題として多いんだろうなって思う。いつまでも仲良くなんて難しいのかなぁ」
「その人って子どもはいるのかな? 不倫にしてもレスにしてもただの不仲だとしても、子どもの有無って大きいよね。例えば子どもが欲しいのにレスなのか、産後のレスなのか……今って、どちらかはセックスがしたいのに出来ないっていうのも、離婚の理由になるんだって」
「まぁだって人間に元々備わってる欲求だしね。でもこのストレス社会で、それを強いるのも難しいよ」
「結婚前にそうなるなんて誰も予測しないじゃない? 『将来レスになる可能性はありますか?』なんて話、する人いないと思うし」
「しかもこんな話、相談する先もないからドラマとか漫画で共感する人が増えるのかもね」
「夫婦って所詮は他人だし。それなのに夫婦って形に縛られる訳でしょ? 本当に難しいね」
「結婚に理想しか描けない私たちはまだ幸せなのかもね。現実は厳しそうだもん。ダメなら簡単に別れられるし。あっ、でも二葉ちゃんのお姉さんたちは今でも仲良しなんでしょ?」

 突然姉夫婦のことを振られ、二葉は驚いた。

「よく覚えてたね。でもあの二人は特殊かなぁ。お姉ちゃんが中二からずっとお義兄さんに片想いして、今もラブラブだし。しかも産後に『性欲が強くなった気がする!』って困ってた」
「あはは! 性欲がなくなるっていうのは聞いたことがあるけど、逆の人もいるんだね〜」
「確かに。でも旦那さんとラブラブならいいよ。受け止めてもらえることが一番の幸せ。私には彼を受け止める度量がなかったわけだし。ただ次の恋はそうならないようにしようって決めてるの」
「そうだね。お互いを思い遣っていきたいよね。あぁ、私もラブラブになりたい〜!」

 京子の切実な言葉にみんなは声を出して笑い合った。

 


 
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