客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
食事が終わりかけた時、少し不安そうな表情を浮かべた匠がようやく口を開いた。
「で……先生の話って何?」
二葉は真面目な顔になり、匠をじっと見つめるとこう言った。
「先生と会って話してみようかと思うの」
匠の顔が険しくなる。
「どういうこと?」
「……この間は匠さんの話だけで終わっちゃったでしょ? だからきちんとお互いの話をしてみたいと思って」
「話すことなんかある? 俺は二葉をあの人の前に出したくない」
「どうして?」
「心配だからに決まってるだろ⁈ あの人は言葉の圧力が強いんだ……二葉も強いけど、あの人に言い包められるに決まってる……」
珍しく語気の強くなった匠から、彼がどれほど心配しているかが伝わってくる。
「そうだね……ちょっと怖い。でもね、なんだかあの人……何かを隠してるような気がするの……。なんとも説明し難いんだけど、あの日の匠さんみたいな複雑な感情を抱いてるような……そんな感じがするの。だから話を聞きたいなって思ったんだ……」
二葉は匠の目を見てしっかりと意思を伝える。しかし匠は頭を抱えて首を縦に振ろうとはしない。
「二葉が心配なんだよ……」
「うん……わかるよ」
「こ、こんなこと俺が言うのもおかしいけど、二葉は初めて会った俺に声をかけて、ノコノコとホテルまでついていっちゃったじゃないか……! 警戒心がないというか、騙されやすいというか……」
「はぁっ⁈ あ、あのね! あれは匠さんだから声をかけたんだからね! ちゃんと住職さんに挨拶をして、写経も渡して、百円玉をしっかり用意してるような匠さんだから話しかけたし、真面目に巡礼している姿にキュンとしたからホテルも行ったんだよ!」
「わ、わかってるけど、二葉は素直すぎて心配なんだよ……!」
「どの口がそんなこと言うのよ〜! ホテルにつれていった張本人のクセに!」
「だ、だから心配してるんじゃないか!」
匠は困ったように下を向く。二葉は彼の隣に座り、そっと抱きしめた。
匠の気持ちもわかる。先生に縛られていた張本人だからこそ、何が起こるか、何を言われるのかを想像してしまうのだろう。でも二葉自身、彼女を放っておいてはいけない気がしたのだ。