客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
　真梨子の前ということもあり、匠に連絡を入れることが出来ず、二葉は極度の緊張状態のまま店の中に入る。真梨子がカウンター席に腰を下ろしたため、二葉はその隣に座った。

　お互いにカクテルを注文し、グラスが置かれたタイミングで真梨子が口を開いた。

「よく私に会おうなんて気になったわね」

　二葉は真梨子の顔を見る。口調は強めだったが、表情はどこか悲しそうに見えた。

「……六年前、匠さんと出会った時に、あなたは結婚しているって聞いたんです。つまりは不倫ですよね」
「そうよ、それがどうしたの？」
「実は私もあの時、匠さんとは浮気だったんです」
「えっ……」
「私、彼氏が浮気してる現場を見ちゃったんです。私の時は家で済ますのに、キレイな女の人とホテルに入って行ったんです。許せます？　だから別れるための英気を養うために秩父に行って、そこで匠さんと出会って、浮気しました」
「そ、そうなの……なんだか情報が多すぎて、どう反応していいかわからないわ」
「まぁ……匠さんは女運が悪いのかなと」

　二葉が言うと、真梨子は初めて笑った。ようやく二葉は緊張が解け、胸を撫で下ろす。

「確かに、訳あり女ばかりね。で、その男はどうしたの？」
「すぐに別れました」
「正しい判断ね。女を馬鹿にしてるとしか思えないもの。匠とは？」
「匠さんは旅先の出会いです。もちろんその場限りです」

　二葉は話を切り出すタイミングを考えながら、真梨子がガードを緩めた今だと思う。
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