客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜

極上の夜

 食事を終えた二人が向かったのは、結婚式場も備えている高級ホテルだった。

 二葉は自分が場違いな気がして気が引けた。しかしそんなことを思う間も無く、匠に手を引かれてエレベーターに乗り込む。

 最上階手前で降りると、廊下を端まで歩く。匠は鍵を差し込みドアを開け、二葉の手を引いて中へ招き入れると、彼女の体をそっと包み込むように抱きしめた。

 その時二葉はあることを思い出して、匠の肩をそっと押す。

「あの……母親に連絡を入れてもいい?」
「もちろん」

 ポケットからスマホを取り出すと、匠に背を向ける様に母親に電話をかける。

「あっ、お母さん? 連絡遅くなっちゃってごめんね。今秩父なんだけど、結願(けちがん)したら帰るから」
『……二葉、誰かと一緒なの?』
「ううん、一人で旅してる。じゃあまた連絡するね」
『えっ、ちょ……二葉……』

 母親の言葉の途中だったが、言いたいことを言った二葉は切ってしまう。
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