客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜

「あの……」

 会議の中で、二葉は初めて自分の声を出した。

「どうした?」

 みんなの視線が集まり、少しずつ緊張感が増していく。

「あ、あの、この企画の対象は独身の男女だけですか?」

 会議室が一気に静まり返る。

「……というと?」

 部長に意見を求められ、二葉は突然のことに戸惑い出す。しかし隣にいた木之下に背中を叩かれ、少しだけ落ち着きを取り戻す。

「既婚の夫婦が、二度目の愛を誓う……そんなことは出来ないでしょうか。式を挙げられなかった人や、子どもが独立して久しぶりに夫婦だけになった方、喧嘩をした後の仲直りの材料や……冷え切ってしまった夫婦仲を取り戻すためなど、改めてプロポーズをする場を提供するんです。結婚式に繋げることにはなりませんが、ドレスを着て写真撮影をするなど、プランに幅を持たせれば、多くの方に利用していただけるかと思います」

 言い切った後の静けさが二葉の不安を煽る。思わず目を閉じて下を向く。

「……うん、良いんじゃないか。確かに対象が広がるのはいいと思うし」
「プランをある程度確定させて、オプションで追加出来れば、プランナーの負担も減らせますしね」
「場所も一ヶ所に固定しなければ、複数組を同時にも出来ますよ」

 二葉の言葉が会議の中で膨らんでいく。初めての経験に、二葉の心は踊った。

「よし、じゃあその案で進めていこう」

 部長の一声で会議が終わる。硬直したままの二葉の肩を木之下が笑顔で叩く。

「初めて企画に参加した感想は?」
「う、嬉しいです……」
「うん、それは良かった。よし、この調子でうちのグループも詰めていかないとな」
「は、はい!」

 木之下と二葉は使った資料をまとめると、会議室から出る。だが何を思ったのか、木之下は二葉に資料のファイルを渡した。

「悪いんだけど、この資料を片付けて、続きのファイルを取ってきてくれるか?」
「あっ、はい、わかりました」

 資料室に向かう二葉の背中を見送りながら、木之下は思わずほくそ笑んだ。
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