客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
 資料室に入り、ファイルを戻すと次のファイルを取り出す。

 その時ドアが開く音がしたが、気にも止めずにドアの方へ歩き出す。しかしドアの前に立っていたのが匠だったため、二葉は驚きと喜びで彼のそばに駆け寄る。

 そして頭の中で、木之下が気遣ってくれたことに気付く。

「木之下さんね」
「そう。ちょっと目で合図を送っておいた」

 匠は二葉の体を抱きしめ、奥の方に移動していく。彼女の手から資料を取り上げると、棚の空いている部分に載せる。

「これで首に手を回せるでしょ?」

 二葉が返事をするまでもなく唇を塞がれる。匠の希望通り首に腕を回すと、彼の手に腰を強く引き寄せられる。体と体がピタリと密着し、それだけで二葉は体の芯が震えた。

 この人はわかっててやってるのかしら……。だとしたら本当に困ったものだわ。

 唇が離れると、匠の唇が二葉の耳を甘噛みする。

「……さっきのってさ、先生が関係してる?」

 熱い吐息が降り掛かり、腰が抜けそうになる。しかし匠の腕にしっかりと支えられ、二葉は彼の胸に倒れ込む。

「……うん、してる。なんとなく発言しちゃったの、ごめんなさい」
「なんで謝るのさ。でもなんか変な感じ。俺より二葉の方が先生のことを知ってるみたい」

 二葉は匠にキスをする。

「別に先生のための発言じゃないのよ。しかも私が話すことなんて、きっとただの綺麗事でしかない……」
「まぁ……そうかもしれない。でも逆に二葉のこの案を喜んで受け入れる人だっているはずだよ。それは受取手次第なんだから、俺たちは全力で企画を作っていこう」

 匠さんの笑顔は私に勇気をくれる。大丈夫だって安心させてくれるの。
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