客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
「例えばなんだけど」
木之下は空を見上げながら話を続ける。
「副島が後悔してる過去をやり直してみたら? また同じ場所に行って、同じことをして、後悔している二人の最後を上書きするんだよ。本当はこうしたかったんだって。今なら違う続きが始まるんじゃないか?」
あの最後をやり直す? そんなこと考えたこともなかった。あの日の出会いと別れはセットになっていたから、変えらないけど大切な思い出だった。
でも俺たちは一度離れたものの、今も繋がっている。それなら新しい思い出を追加してもいいのか……。
匠の心に温かい希望が生まれてくる。確かにやってみる価値はあるかもしれない。
「木之下、それすごいアイディア」
「だろ? また別のイベントの時に提案してみるか」
真剣に話す木之下に、匠は笑いが止まらなかった。その姿を見て、木之下も安心したように笑顔になる。
「副島をここまでメロメロにするんだから、雲井さんは相当やり手なんだな」
「まぁちょっと特別かな。俺のツボに全てハマってる」
「へぇ。例えば?」
頭の中に二葉の姿を思い浮かべると、つい顔が綻ぶ。
「好きなものを語る時の笑顔とか、怒ってもすぐに機嫌を直してくれるところとか、俺の話を聞いてくれるし、必ず味方になってくれるところとか……」
「ふーん。それならさ、ちゃんと繋ぎ止めないとな。雲井じゃなくて、もういっそのこと副島に変えた方がいいんじゃないか?」
「えっ……どういう……?」
木之下はニヤッと笑うと、メガネの奥で不適な笑みを浮かべる。
「副島、君にナイスな提案があるんだが……」
あまりの木之下の気迫に、匠は頷くしかなかった。