客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
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会社に戻った匠と木之下は、休憩室で食後のおしゃべりを楽しむ二葉と美玲を見つけた。
「おっ、良いタイミング」
木之下はそう言うと、匠の肩を叩き、ニヤッと笑う。
「じゃあ《《予定通り》》頑張れよ」
匠の返事も待たずに、木之下は美玲を呼び出すと、オフィスへと戻っていく。
一人になった二葉は静かに外を眺めていた。笑顔ももちろんいいけど、ああやってボーっとしている姿も可愛い。
匠はゆっくり二葉に近付くと、先ほどまで美玲が座っていた椅子に座る。誰かが座ったことに驚いた様子だったが、匠だと気付くとふっと表情を和ませる。
「お疲れ様です。どうかされましたか?」
「うん、お疲れ様。なんか最近忙しいなぁと思って」
他愛もない会話をしながら周囲を見回し、他のグループに聞こえないよう匠は小さな声で囁く。
「あのさ、来月の三連休、また一緒に秩父を巡らない? たぶんその頃にはこの忙しさも落ち着いてると思うんだ。どうかな……?」
言い終えてから二葉の顔を見ると、キラキラした笑顔で匠を見ている。
「いいんですか? もちろん行きます! 仕事が忙しくたって、終わってなくても、何がなんでも行きますよ!」
静かに喜びを表現する二葉に、匠も嬉しそうに微笑む。
「じゃあ約束ね」
「うふふ。なんか仕事も頑張るぞって思える。ありがとう」
それは俺の方だよと言いかけて、グッと飲み込む。本当は抱き寄せて、それから……いやいや、人がいるところで迂闊なことは出来ない。
匠は頭を横に振る。二人は立ち上がるとそのままオフィスに戻るのだった。