客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
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五番札所の語歌堂は無人のお堂のため、お参りを済ませてから長興寺の納経所に行って御朱印をいただくことになっている。
語歌堂に着くと、二葉は今までになく熱心に手を合わせていた。それを見て、匠は何となく感じるものがあった。
「二葉?」
匠は背後から二葉を抱きしめる。二葉はその手を掴み、頬を寄せた。
「……ここってね、秩父の札所の中で唯一の准胝観音様なんだよね。准胝っていうのは『限りない清浄』を意味してるんだって」
辛いことも苦しいことも、傷付いた人たちが癒されますように……そして……。
「あとは子授け、安産でしょ? 二葉、また先生のこと考えてるんじゃない?」
二葉は驚いたように目を見張ったかと思うと、今度は下を向く。
「うっ……ごめんなさい……」
「まぁいいよ。自分だけじゃなくて、誰かの幸せのためにお参りをする気持ちも大事だと思うからさ」
匠は笑顔で二葉の頭を撫でる。その優しさが、二葉の胸を苦しくさせた。
「でもそっか……。子授けと安産……ねぇ二葉、そろそろ俺たちの子どもでも考えちゃう?」
「えっ⁈」
「だって子授けと安産だよ。俺たち二人だってアリじゃない?」
にっこり笑う匠に対して、二葉は顔を真っ赤にして挙動不審になる。
その動きの意味が、嬉しいからなのか、それとも困っているのかは匠にはわからなかった。
俺は今すぐにでもいいんだけどね。そう思いながら、匠は二葉の背中を叩く。
「さぁ、先に行こうか。九番の明智寺で二葉が愛してやまない如意輪観音様が待ってるよ」
「あっ、そ、そうだった!」
二葉は匠が差し出した手を握り、長興寺へと歩き出した。