客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
 一日目の巡礼を終え、匠が向かったホテルを見て二葉は驚きを隠せなかった。

「ここって……」
「そう。六年前と同じホテル。チェックインしてくるから、そこに座って待ってて」

 受付に向かう匠の背中を見送り、ロビーの椅子に座りながらホテルの中を眺める。

 あの頃は自分がホテル業界に就職するとは思わなかったから、あまりよく見ないまま匠さんの部屋に行ってしまった。今なら観察する場所がたくさんあることがわかる。

 そういえばここって、真梨子さんと話をしたホテルと同じ系列だ。雰囲気は少し違うが、どちらも高級ホテルだった。

 ホテル代は匠が支払うと言ってくれたが、急に不安になる。高そうだけど、本当にいいのかな……。

 本当に不思議だな……あれから六年も経つのに、あの時からずっと彼に恋をしていたように思う。それより今の方がもっと彼を好きになってる。

 あの日は緊張し過ぎて余裕なんてなかったけど、今でも匠さんとの初めての夜を思い出すだけで体が震えるの。

 その時だった。

「本日宿泊のお客様でしょうか? ようこそおいでくださいました」

 突然声をかけられ、二葉は声のした方を振り返る。そこにはピシッとしたスーツに身を包んだ、三十代後半くらいの男性が笑顔で立っていた。

 力強い瞳と、きっちりとまとめられた髪型。この人物がそれなりの役職であることは明白だった。
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