客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
 二葉はまず降りた階で驚き、部屋に着いて更に驚いた。

「もしかしてあの日と同じ部屋?」

 二葉が歓喜の声を上げるのと同時に、匠に後ろから抱きしめられる。途端、二葉の心臓が跳ね上がった。

 なんでだろう……この部屋に入ると、あの日の記憶が蘇るみたい。初めての時のように、急に緊張感が走る。

 首筋に匠の息がかかり、二葉の体はゾクゾクした。

「……まずここで、二葉がお母さんに電話したよね」

 耳元に匠の唇が触れ甘噛みされると、ドキドキが止まらなくなる。

「うん、したね……」

 あの時は初めて親に嘘をつき、悪いことをしたような気持ちになった。それくらい彼といたい気持ちの方が勝ってしまったのだ。

 匠の手が緩むと二葉は彼の方に向き直り、その胸に体を預ける。匠の温かさと彼の匂いに、この上ない安心感を覚える。

「二葉、緊張してる?」

 服の裾から匠の指が侵入し、ゆっくりと胸の頂へと到達すると、二葉の口から甘い吐息が漏れる。

「……この後二人でお風呂に入ったんだ。さて、どうしようか。ちょっとゆっくりする? それともお風呂?」

 匠の声が優しく響き、唇を塞がれたものだから、二葉は腰を抜かしかけた。それを見越していたかのように、匠は両腕で抱き止める。

 もう本当にどうしようもない……二葉は匠の首に腕を回す。匠の仕掛けた罠にかかり、体に火がついてしまった。

「……お風呂がいい……」
「了解」

 匠は二葉の体を抱き上げると浴室の扉を開けて中に入る。

 キスをしながらお互いの服を脱がせ、衝動的に体に手を這わせていく。

 彼の手が敏感な部分を刺激するたびに、二葉の息はどんどん荒くなっていく。

「はぁ……ホテルとか久しぶりだから……すごくドキドキする……」

 シャワーを出しながら、匠が驚いたような顔をし、徐々に顔が青ざめていく。

「手を抜いてたわけじゃないからね⁈」
「えっ、違うよ⁈ 匠さんのお家は好きだよ。ただ……匠さんと初めて過ごした場所だし、絶対に一人じゃ泊まれないような高級ホテルだし……いろいろドキドキするの……」

 二葉は匠の体に抱きつく。肌と肌が触れ合うと、もう気持ちを抑えられなくなる。シャワーの熱さのせいじゃないのはわかっていた。

「初めて二葉を抱いた時のこと、なんか思い出しちゃうなぁ……」

 お互いの体を洗い合いながら、匠は懐かしそうに微笑む。その顔があまりにも愛しくて、二葉は自分から匠にキスをした。

「……ねぇ匠さん……あの日って……この後どうなったっけ……」

 本当は覚えているけど、わざと忘れたふりをする。

「忘れちゃったの? さぁ、どうだったっけ〜」
「……意地悪しないで……もう我慢出来ないの……」

 すると匠はシャワーを止め、二葉を抱えてベッドに倒れ込むとニヤッと笑う。

「二葉ってば、積極的」
「……だって……」
「そんな二葉も好きだけどね」

 首筋を匠の舌が這い、ゆっくりと胸元まで下りていく。

「《《今夜も》》忘れられない夜になるよ」

 その言葉と同時に匠が二葉を攻め始める。

 あぁ困った……言葉だけで意識が飛びそうになるなんて、本当に私はどうかしている……。
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