客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
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二葉のお気に入りだという三十番札所の法雲寺、過酷な三十一番札所の観音院を参拝し、二人は結願の寺である水潜寺に辿り着く。
車を降りた時、目に飛び込んだ風景と、鼻先をかすめた緑の香りによって、二葉の意識は一瞬六年前に戻ったような感覚に陥る。
彼と離れることが寂しくなって言葉が見つからなくなり、つい黙ってしまった私の手を、匠さんは優しく握ってくれたっけ……。
そんな気持ちで立ち尽くしていると、匠が二葉の手を取った。二葉が彼の方を見上げると、匠はいつもと変わらない笑顔を浮かべていた。
あぁ、そうだよね。それは六年前の記憶。今の私たちじゃない。
二葉もにっこり微笑むと、匠の手を握り返した。
「俺ね、あの日最後にここのお寺でお願いしたことがあるんだ」
静かな境内を歩きながら匠が話し始める。
「どんなお願い?」
二葉が聞くと、匠は立ち止まって彼女の方へ向き直る。
「二葉との縁がどこかで繋がりますようにって……」
二葉は驚いて目を見張ったかと思うと、泣きそうな顔で下を向いた。
「実は……私もこっそりお願いしたんだ。匠さんといつかまたどこかで会えますようにって……」