客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
真梨子の決意
 それは突然だった。仕事を終えて帰る準備を始めた頃、二葉のスマホが鳴ったのだ。

 登録されたものではなかったが、画面に並んだ数字を見た途端、二葉には誰からの着信であるかすぐにわかった。

 慌てて休憩室に向かい、電話を取る。

「もしもし」
『……私。わかるかしら?』
「わかります。真梨子さんですよね」

 暫しの沈黙が流れる。

『……あなた、これから予定はある?』
「いえ、ちょうど帰るところだったので……」
『それならちょっとおしゃべりに付き合ってくれない?』
「わ、私でいいんですか⁈」
『女子トーク、してくれるんでしょ? そうね、この間と同じバーはどうかしら?』
「大丈夫です! すぐに行きます!」

 電話を切ると、慌ててオフィスに戻る。まだ残って仕事をしている匠の元へ行きたかったが、和田もそばにいるため迂闊には近寄れない。

 迷った二葉は、とりあえずメールを送ることにした。

『さっき真梨子さんに誘われたので、前回と同じバーで会ってきます』

 送信すると、すぐに匠のスマホが鳴る。メールを確認した匠の表情が険しくなり、二葉の方を見た。

 二葉は微笑むと、荷物を持ってオフィスを出る。するとすぐに匠が追いかけてきた。

「二葉……! さっきのメールって……」
「なんかね、女子トークをしましょうって誘われたの。おしゃべりするだけだから大丈夫だよ」
「でも……」
「何かあったらすぐに連絡するから」

 納得のいかない顔をしていたが、渋々頷く。

「……俺も終わり次第、すぐに行くから」
「うん、わかった」

 到着したエレベーターに乗り込むと、ドアが閉まるまで彼に手を振り続けた。
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