客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
 晃は大きく項垂れ、カウンター席に寄りかかる。

「……自由な暮らしだぞ? 何にも縛られず、好きなことが出来る。何が悪いんだ?」

 口を開こうとした二葉の肩を匠が優しく叩く。

「悪くはありませんよ。あなたのように、そういう生活を望む人だってたくさんいる。ただ先生はそれを望んでいないということです。お二人は結婚生活を続けるうちに、きっと価値観や望む未来の姿が変わってしまったんです」
「……真梨子はそんなに子どもが欲しかったのか?」
「たぶんそれだけじゃありません。あなたからの愛情も欲していた」

 そう……それが叶わないから、逃げたんだ。

 二葉は匠の腕を握りしめると、晃をじっと見つめた。

「前に友人が言ってました。体の関係がなくなると、恋人というより友達のような気持ちになるって。あなたはそれで良かったかもしれない。でも真梨子さんは愛されたかったんです。言葉もない、行為もない、一方通行の愛情。それってただの同居人ですよね」

 今も愛してる人なのに、夫婦なのに……。何度も何度も訴えたのに、欲しいものに手が届かない葛藤。この人はそんな真梨子さんの気持ちをきっとこれっぽっちも理解していない。それが悲しかった。
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